テラ・アニマの物語へ、ようこそ。 前回、絶望の氷壁「ワールド・フロスト」を前に立ち往生していたレオたちの前に、突如として現れた拳法家「くまモンク」。彼は、この巨大な呪いの壁にも、唯一破壊可能な「経絡（けいらく）」が存在すると言い切りました。
魔王の領域への唯一の突破口。しかし、それは決して簡単な道ではありませんでした。
くまモンクの、一点集中の策
「…ここだ」 くまモンクは、巨大な氷壁の一点、人間の膝ほどの高さにある、わずかに黒ずんだ点を指差しました。そこが、この巨大な壁全体の「気」が集中し、そして最も脆くなっている「経絡」でした。
「この一点に、我が全『気』を込めた一撃を叩き込む。さすれば、この壁といえど形を保つことはできぬ」
「本当か！？なら、さっさとやってくれ！」 リルドラが槍を構え直します。
「待て」 くまモンクは、静かに目を閉じました。「全『気』を込めるには、しばし時を要する。そして…」
彼が言葉を続けた瞬間、氷壁が不気味に脈動しました。 「…我が『気』を高めれば、壁もまた、我を最大の脅威とみなし、全力で排除にかかるだろう。この一点を守り抜くこと、お前たちにできるか？」
その問いは、レオたちパーティ全体に向けられたものでした。 レオは、くまモンクの前に立ち、その巨大な盾を構えました。 「我々の答えは、これだ。アルパカメイジ、カナリアン、フラミン！全員の守りと支援をくまモンクに集中させろ！残りの者は、私と共に死守する！」
八つの光が、一つの拳を守る
「覚悟は、決まったようだな」 くまモンクが、その場で深く腰を落とし、瞑想に入ります。彼の体から、凍てつく空気を押し返すほどの、熱いオーラが立ち昇り始めました。
その瞬間、氷壁が咆哮を上げます！
「グオオオオッ！」 壁から、無数の「黒い氷の槍」がレオたちに向かって射出されます。
「させない！」 レオの盾が、仲間たちを守ります。しかし、攻撃はそれだけではありません。砕けた氷の欠片が、次々と魔物の形…「アイスゴーレム」となって立ち上がりました。
「数が多すぎる！」「こいつら、キリがないぜ！」 フェネックとコンすけが、俊敏な動きでゴーレムの群れを攪乱します。 「ボクに任せろ！こんな雑魚ども！」 リルドラが空からゴーレムを貫きますが、ゴーレムはすぐに再生してしまいます。
「ダメだ、再生が速い！動きを止める！」 クロネコウィッチの影の魔法が、ゴーレムたちの足を拘束します。
「皆さん、耐えてください！この寒さが、皆さんの体力を奪っています！」 アルパカメイジが、必死に癒しの光を放ちます。 その時、アルパカメイジの光に呼応するように、カナリアンがリュートをかき鳴らし、フラミンがステップを踏み始めました。
「ボクたちの番だね、フラミン！」 「ええ！こんな絶望的な舞台、私たちの芸術で、希望に染め上げてあげる！」
カナリアンの希望の歌と、フラミンの情熱のステップが共鳴します。二人の魔力が合わさり、パーティ全体を包み込む「温かな光のドーム」が出現しました！ その光に触れたアイスゴーレムたちは、再生の力を失い、次々と崩れ落ちていきます。
「すごい…！二人の力が、呪いそのものを打ち消している…！」 アルパカメイジが驚愕します。
不動の一撃
「…今だ」
すべての魔力が最高潮に達したその瞬間、くまモンクの目が、カッと開きました。 彼の右腕には、森羅万象の「気」が、一点に凝縮されています。
「―――不動、撃心拳！！」
それは、音速を超えた、静かな一撃でした。 くまモンクの拳が、氷壁の「経絡」に寸分たがわず触れた瞬間――。
時が、止まりました。
次の瞬間、巨大すぎる氷壁に、一本の亀裂が走ります。 亀裂は、天を衝く壁の頂上から、地平線の彼方まで、一瞬にして広がり…。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ！！
世界を分断していた絶望の壁は、凄まじい轟音と共に、ガラガラと崩れ落ちていきました。
崩れ落ちた壁の向こう側。 そこには、今までの荒野とは比較にならない、禍々しい呪いの魔力が渦巻く、**本当の「北の地」**が広がっていました。空は赤黒くよどみ、遠くには、アルマジロラクルが予言した「影の城」の輪郭が、不気味にそびえ立っているのが見えます。
「…ボクの求める『歪み』の正体は、あの城か」 くまモンクは、静かに自分の拳を見つめ、北へと歩き出しました。
「待ってください！あなたも…？」 レオの言葉に、彼は振り返らずに答えます。 「我は、世界の平和にも、お前たちの旅にも興味はない。だが、あの不自然な『歪み』を正すことは、我が修行の道。…一時、共に行くぞ」
こうして、最強の求道者を加えた9人の一行は、ついに魔王の領域へと、その第一歩を踏み出したのです。
次回、「異世界転生キャラたちの冒険 第11話：呪われた大地と、忍び寄る影」 ついに魔王の領域へ。しかし、彼らを迎えたのは、魔王軍の軍勢…ではなく、思いもよらない「訪問者」だった。 どうぞ、お楽しみに！
